離婚前提から 始まる恋
「大丈夫ですか?」
「う、うん」

偶然とはいえ拓馬君に抱きしめられた私は、身動きもできずにその場で固まっていた。

「安心してください。花音さんを困らせる気はありません。ただ、辛くなったら俺のことも思い出してください」

私に好意があるとわかった時点で、私は拓馬君に距離を置くしかない。
拓馬君の言葉はとっても優しくて親切に聞こえるけれど、やはりそれは人の道に外れることだから。

「ごめんなさい。私は拓馬君を男性として見ることができないわ」
「どうしても、ダメですか?」
「ええ」

たとえ勇人との結婚が愛のないものだったにしても、他の誰かを好きになることはできない。

「オイ」

え?

いきなり背後から聞こえてきた声。
午前0時過ぎとはいえマンションの前で立っている私と拓馬君が通行人の邪魔をしたのかなと思ったけれど・・・

「何をしているんだ?」

低音でよく響く心地のいい声には聞き覚えがある。
でも、まさか・・・

私は拓馬君の手をほどきゆっくりと振り返った。

「う、嘘」
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