離婚前提から 始まる恋
「花音、今帰りか?」
「ええ」

そこにいたのは、明日の夜帰国予定だった私の旦那さま。

「こちらは?」
きっと私に聞いているのだろうけれど、表情一つ変えることなくじっと拓馬君を見ている勇人が少し怖い。

「彼はボランティアサークルのお仲間で拓馬君。私が飲み過ぎてしまって、送ってくださったの」
二人で飲んで酔いつぶれて寝てしまったことは言わずに、親切に送ってもらったのよと主張してみた。
もちろん、そんなことで勇人が納得するとは思っていない。
だって、私と拓馬君が抱き合っているように見える場面に勇人が登場したんだから、きっと誤解をしているはず。
後でゆっくりと説明しようとは思うけれど、この重たい空気にたまりかねてとりあえず言い繕ってみた。

「花音がお世話になりました。あとはこちらで引き取りますので」
私のことは見ることもなく拓馬君に声をかけると、私の腕を引き寄せ、
「花音、帰るぞ」
勇人はそのままマンションに向かって歩き出した。
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