離婚前提から 始まる恋
部屋に入り玄関のドアが閉まった瞬間、私の前を歩いていたはずの勇人が振り返りじっと私を見下ろす。
何?っと小首を傾げようとした私の顎に勇人の手がかかり、ゆっくりと近づいてくる顔。

え、あっ。
何か反応する余裕もなく、唇と唇が重なった。

勇人と私がお互い納得の上で決めた離婚前提の結婚。
だからと言ってすべてを嘘にするつもりは無い。
結婚当初、「離婚することがわかっている男にわざわざ抱かれる必要はないんじゃないのか?」と勇人は言ったけれど、「たとえそうでも、私は勇人の妻であることに間違いないし、その事実は離婚しても消えない。だからこそ、ふつうの夫婦のように過ごしたい」と私からお願いして体を重ねた。
さすがに頻繁にってことはないけれど、お互いの記念日や気持ちが通じた時にはベッドを共にする。
でも、こんなに強引に求められることは今までなかった。

「考え事か?随分余裕だな」
「え、いや・・・っ、んっ・・・!?」

違うんだと言おうとしたすきに唇を割られ入って来た生暖かい感覚。
まるで私の反応を楽しむように私の口腔内を動き回る舌。

「や、まっ・・・」

何か言おうとするたび勢いが増すようで、勇人の体と玄関ドアに挟まれた状態の私は息をするのもやっと。
まだ少しお酒が残っていた私は、そのうち頭がボーッとし始めた。

「お、ねがい、まっ・・・て」
最後の力を振り絞り勇人の体を押し戻した。
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