エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「会いました! 仕事が終わたときに連絡がきてそれで少しだけカフェで会ったの」

「なんの話をしたんだ?」

「それは……忘れちゃった」

 もちろんそんなはずはない。しかしここで清貴に告げ口のように話しをしたところでどうにもならない。

 しかし彼はそれを良しとしなかった。

「それは澪の仕業か?」

「違うって、さっき言ったでしょ? ちょっとドジしたんだって」

 なんとかごまかそうとするが、清貴の目の奥が鋭く光り菜摘の体に緊張が走った。

「本当か? そのあたりのカフェにしらみつぶしに話を聞くがいいのか?」

「ちょっと、そんなことしないで!」

 今の勢いの清貴ならやってしまいそうだ。あわてて止めた菜摘を見て清貴はまだ不満そうにしていたものの、追及の手をゆるめた。

「わかった。菜摘がそう言うならそうなんだろう。まあ、澪がお前に何を言ったのかくらいは想像がつく。いつまでも子供だと思って許してきたが、今回だけはダメだ」

 清貴は運転手に車を出すように言うと、車が走り出した。

「ダメって、何をするつもりなの?」

「澪は俺にも今回の結婚について文句をつけてきた。しかし外野にとやかく言われる筋合いはない。しかも俺だけならまだしも菜摘にまで。少し甘やかしすぎたみたいだ」

 もやもやしていた菜摘だったが、清貴の言葉に少し溜飲が下がる。

「ちょうどよかった。近いうちに丸森ビルの新所業施設のオープニングセレモニーがある。ひとりで出席して挨拶だけで済ませるつもりだったが、菜摘も一緒に行こう」

「私も?」

「あぁ。ちゃんと俺たちが夫婦だって周りに認めさせる」

 彼の力のこもった眼差しに、本気なんだと言うことがわかった。しかし本当にそんなことが必要なのだろうか。

「でも私あんまり自信ないな」

 今日の澪のような態度をとる人がいないわけではないだろう。そう思うと二の足を踏んでしまう。

 しかし清貴はそんな菜摘を説得した。

「菜摘が俺の妻だというのは事実なんだ。だから慣れてもらうしかない。そのためのパーティだ。俺が一緒だからそんなに身構えなくてもいい」

「……うん」

(それって……義務を果たせってこと……だよね)

 跡取りを設けるために自分が選ばれたことは理解していた。しかしそこばかりに気をとられて〝清貴の妻〟という立場についてはあまり考えていなかった。

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