エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「菜摘、不安にならなくていい。まずはその服をどうにかしようか」

 彼女を安心させるように膝に置いていた手に、清貴の手が重なった。

 まだ不安で仕方ない菜摘だったが、清貴の『俺が一緒だから』という言葉を信じるしかないと覚悟を決めた。



 そしてそれから二週間後。

 とうとう丸森ビルのパーティの当日がやってきた。

 たった二週間しかなかったが、仕事や家事の合間に今日のパーティの主な参加者を頭に入れ、一通りのマナーも頭にたたきいれた。付け焼刃は否めないが、何も知らないよりはましだ。

 その日のドレスは黒のシックなロングドレス。清貴が選んだこのドレスはあまり装飾や柄はなくシンプルなサテンの造りだが、ホルターネックで肩から背中が見える。

 自分なら選ばないドレスだったが「菜摘の綺麗な背中が映えるから」と清貴に言われてしまうと着ないという選択肢はなかった。

(そのためにエクササイズやマッサージもがんばった!)

 二週間何もせず過ごしたわけじゃない。完璧には程遠いができることはやった。後は清貴の言葉を信じて彼に任せよう。

 そう思い背筋をのばした菜摘を見た清貴は、美しい妻を見て満足そうに微笑みながら会場に入った。

 レセプションの会場はすでにたくさんの人であふれかえっていた。その中には菜摘でさえ知っているような有名な政治家から、モデルや芸能人などの著名人の顔もちらほらあり、一気に怖気づきそうになってしまう。

 しかし及び腰になった菜摘の腰に手を添え、「ほら顔を上げて」と隣にいる清貴が声をかける。

「自信をもって、すごく綺麗だよ」

 耳元に唇を当てて、彼女にだけ聞こえる声で囁いた。息が耳にかかり思わず体がビクッと反応してしまう。

「ちょ、ちょっと近くない?」

 恥ずかしくて顔に熱が集まる。しかしそんな初々しい反応を彼は楽しんでいるようだった。

「そう? でも今日の俺の目的は妻を自慢することだからこのくらいは序の口だろ」

「序の口!?」

 これ以上どんなことをするのかと、彼の顔をまじまじと見つめると、プっと噴き出した。

「冗談だよ」

「そうだよね、びっくりした」

 菜摘もつられて互いに目を合わせながら笑い合う。笑ったことで少し緊張が解けた。

「安心しろ。いくらお前が綺麗だからって人前ではちゃんと節度を持った態度をとるから。行こう」

「うん」
< 56 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop