エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
「あぁ、清貴君忙しいところよくきてくれたな」

 丸森社長は笑顔で清貴に近付くと、彼の背中をポンポンと叩いて親しげに話しかけてきた。

「お招ききただきありがとうございます。紹介させてください、妻の菜摘です」

 紹介された菜摘は丁寧に頭を下げた。

「はじめまして、加美菜摘です」

「あぁ、話に美しい人だと聞いていたが、想像以上だ」

 お世辞だとはわかっていても否定されずにほっとする。清貴を見ると彼も嬉しそうに笑っていた。

「そうでしょう、自慢の妻です」

「ちょっと……やめてよ」

 さすがに人が見ている前でこんなことを言うなんて非常識だと思い、たしなめようとする。しかしその姿さえ仲睦まじく見える。

「まさかあの堅物の清貴くんが、急に結婚だなんて驚いたよ。嫌でも幸せそうでよかった」

「思いのほか、結婚生活は自分に合っているようです」

 清貴の言葉に、菜摘はそれが本心ならばどれほど喜ばしいことかと思う。

「私にはそうは見えないけど。だって私が清貴くんと結婚するはずだったのに」

「澪、なんてことを言うんだ!」 

 丸森社長がたしなめるが、澪はお構いなしに続ける。

「だって、パパだってそう言っていたじゃない」

「それは、そうなればいいなというただの世間話だろう。良いから静かにしなさい。先日の娘が失礼したそうだね、すまなかった。菜摘さん」

「いえ、大丈夫ですので」

 そう伝えるも、澪の顔が怒りに満ちた。

「告げ口したの?」

 ギロリと菜摘を睨んできた。

 しかしそれを清貴が許すはずなかった。

「俺が言ったんだ。大人の事情に子供が口出ししてきたから保護者にお話しただけだ」

「子供、私がっ?」

「そうだろう。人の家庭に口出ししたうえに、彼女に飲み物までぶちまけてたそうじゃないか。そんなことは子供がすることだ」

「ひどい……」

 さっき菜摘を睨んでいた顔とは打って変わって、上目遣いで目を潤ませる。それだけ見ていると思わず庇護欲を掻き立てられそうだ。

「泣いてすむと思ってるのが、ガキだな」

 バッサリ切り捨てた清貴の腕を菜摘が取って、これ以上は何も言わないようにと止める。

「清貴くんなんて、嫌い」

「あぁ、嫌いで構わない。二度と妻に近付かないでくれ」

 丸森社長の前だと言うのに、容赦なく言う清貴にひやひやする。

 澪は涙をためたまま、急に走り出して会場の外に出て行った。

「あっ……」
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