エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 断ったけれどその慌てぶりが、清貴のスイッチを入れてしまったのか「いいからいいから」と押し切って菜摘のフォークを取り上げた。そしてすぐにカスタードクリームのついたタルトを口に運んでくる。

 目の前まで持ってこられたら拒むこともできずに、口をひらくとフォークが差し込まれた。サクッとした生地とクリームの甘さが口の中に広がる。

「うまいか?」

「うん」

 美味しいけれど正直タルトを味わうよりも、彼に食べさせてもらってるドキドキの方が大きい。

「昔もこうやって食べさせたな、懐かしい」

 菜摘に次のタルトを運びながら、柔らかな笑みを浮かべる清貴を見て、彼の中でも昔のふたりの思い出は嫌なものではないのだと思うとほっとした。

 菜摘が壊してしまった恋だけだれど、いや、壊してしまったが故に彼が過去をどう思っているのか気になっていたのだ。

 だから今彼の表情を見てほっとしている。

「菜摘。ここついてる」

 考え事をしていると彼の手が伸びてきて、親指が唇を拭った。その指を目の前に出されるとクリームがついていた。

「子供みたいだな」

 そういいながらペロッと舐めてしまった。

「あっ、それ私の――」

「なんだ。別にそのくらい気にする必要ないだろう」

「そうなんだけど、なんだか恥ずかしくて」

 目を合わすことができずに伏せていると、清貴が近づいてきて菜摘をクンクンと嗅いだ。

「な、なに!?」

「いや、たばこの匂いにそれに男物の香水の匂いがするな」

 目を細めて不機嫌そうにする清貴。思い当たるふしがあるので説明する。

「今日はずっと男性の隣の席だったし、帰りに外でたばこを吸っているひとがいたから匂いが移ったのかも」

「他の男の匂いだと? これは容認できない」

「ごめん、シャワー浴びてくる」

 急いで立ち上がった菜摘だったが、勢いをつけすぎたのかその場でよろめいてしまう。

「おっと、大丈夫なのか。酔いが回ったか?」

「平気」

 実際アルコールに弱いわけではない。会社の飲み会でもそんなにたくさん飲んだわけではない。ただ本当によろけただけだったのだが。

「え、待って! きゃあ」

 座っていたはずの清貴が立ち上がると、そのまま菜摘を抱き上げてしまう。

「ど、ど、どうして!?」

「酔って風呂は危ないだろう。だから俺が一緒に入ってやる」

「無理無理無理無理、何言っているの?」
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