エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 ダイニングテーブルにのせられた彼が選んだケーキは、フルーツがたっぷりのタルトだ。菜摘がケーキよりもタルトが好きだということもちゃんと覚えていたのだ。

 ケーキの上に清貴が細い蝋燭を立てていく。そして明かりを消すと「どうぞ」と吹き消すように促した。

 菜摘は息を吸い込むと、小さなころからの習慣で願いごとを頭の中に思い浮かべた。

【好きなってほしいなんて贅沢は言わない。でもこうやって清貴と夫婦として穏やかな時間がすごせますように】

 彼のこと以外、願い事なんてなかった。熱心に心の中で唱えると一気にろうそくを消した。

「誕生日、おめでとう。菜摘」

「ありがとう」

 お礼を言い微笑むと、清貴が明かりをつけた。

「さっそく食べようか」

「うん」

 清貴がよく冷えたシャンパンをフルートグラスに注いでくれた。少しピンクがかったロゼのシャンパン。ふたりで乾杯をして口に運ぶとシュワシュワとした心地よい刺激が喉を通過した。

「美味しい。いくらでも飲めそう」

「でも、今日は飲んできたんだろ? また準備しておくからほどほどにな」

「うん。でも清貴が待っているってわかったら、飲み会なんて参加しなかったのにな」

 思わず本音が漏れてしまった。でもこのくらいは許されるだろう。

「職場のコミュニケーションも大切だろ。俺にはいつでも会えるし」

「たしかにそうだけど……」

(そうだけど、そうじゃないのに)

 今日という特別な日だからこそ、清貴と一緒にいたかった。しかしそれを伝えてしまうと、菜摘は彼が求めている妻ではなくなってしまう。

 清貴の妻の条件はゆくゆくは加美電機の後を継ぐ彼のとなりにいても恥かしくない女性だ。多くを求めてはいけない。そして彼の子を産み育てることができる女性。

(愛して欲しいなんて最大のワガママだもの)

 こうやって誕生日を覚えていて祝ってくれている。大切にされているのだから、これで満足するべきなのだ。

 色々と考えてしまいそうだったので、あえて話を自分で変えた。

「このケーキすごくおいしい! どこのだろう、今度行って……あっ」

 フォークに刺していたブドウがコロンと転げ落ちた。

「なんだ、そそっかしいな。そうだ、昔みたいに俺がたべさせてやる」

 落ちたブドウを拾った清貴が、いきなりそんなことを言い出すので菜摘は慌てる。

「いいよ、大丈夫だから!」
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