エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 菜摘のグラスに清貴がシャンパンをそそいでくれた。

(この味、きっと一生思い出すんだろうな)

 そんなことを考えながら、食事する清貴の姿を目に焼き付けた。

 食事の後は祥子の手作りマドレーヌでコーヒーを飲もうと誘うと清貴もちょうど話があったといいふたりでリビングに並んで座った。

 その話の内容が結婚式の招待客のテーブルのことで、菜摘はドキリとする。実は早い方がいいと思い、今日すでに式場にはキャンセルの連絡を入れていた。あとはキャンセル料を支払うだけになっている。

 しかし最後の夜だという思いが強く、菜摘はキャンセルしたことは言い出さずに清貴に話を合わせた。

(ごめんね、ずるくて)

 笑顔を浮かべ心の中で彼に謝罪を繰り返した。

 時間も遅くなってきたので、順番にバスルームを使う。菜摘が後からお風呂を終えて出るころ、彼はたいていリビングで仕事か読書をしていて今日もいつもと同じように過ごしていた。

 いつもならここで軽く会話をして「おやすみなさい」で自室に向かう。

 しかし今日は違った。菜摘はひとつの決心をしてリビングに立っていた。しかし言葉がなかなか口から出てこず立ち尽くしたままだ。

 さっきまであれこれとバスルームで考えていた言葉は実際に清貴の姿が目に入ると途端に引っ込んでしまう。

 こんなところにただ立ったままじゃ、彼に変に思われる。そう思うと同時にやはり清貴のほうが菜摘の様子がいつもと違うのに気が付いた。

「どうかしたのか?」

「あの、えっと……うん。清貴、今忙しい?」

(あくまで自然に、何でもないことのように、さらっとよ、さらっと)

 平静を装いながら、心の中は自分に言い聞かせる言葉が洪水のようにあふれかえっている。

「別に、もう寝るだけだけど」

「そう……なんだ」

 ここまできてやっぱり先を継ぐ言葉が出ない。だんだんと緊張から手のひらをぎゅっとにぎりその中はびっしりと汗をかいていた。まともに彼の顔をみることができずに顔がうつむきがちになる。

「本当にどうしたんだ? 何があった?」

 立ち上がった清貴が菜摘の顔を覗き込んだ。

(ここで言わなきゃ、一生後悔する)

 菜摘は意を決して顔をあげて、しっかりと清貴の目を見た。

「今夜、一緒に寝てほしいの」

「えっ? なんだって――」

「だから今から、ベッドに連れて行ってほしい」
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