23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
「お客さん、着きましたよ」

千歳は、タクシー運転手に料金を支払うと、強く私の手を引いた。

「千歳くんっ」

「だめ、帰さないから」

そのまま、強く手を引かれ、タクシーから引っ張り出される。そのまま、千歳は、黙ったままエレベーターで三階まで上がり、降りてすぐの部屋の鍵を回した。

「やだっ、帰る」

千歳は、私を引き摺るようにして、玄関扉の中へと引き入れた。

そしてそのまま、私の体は、玄関扉に背を向けたまま、千歳に抱きしめられる。

「千歳くん、離してっ」

「なんで?なんで颯先輩なの?」

私は、千歳の身体を、両腕で押し返す。私に向けられた、千歳の真剣な眼差しは、私の知っている、優しい幼なじみのお兄ちゃんじゃない。

強く抱きしめられた腕の強さも、熱と色を纏った視線も全てが、私の知らない男の人の千歳だ。

「……分からない……でも……颯しか見れないの……」

「颯先輩は、誰にも本気にならない。美弥だって分かってるでしょ?」

「颯は、本気だって言ってくれるから……信じたい……こんな弱くて、自信のない私だけど、颯から……離れられない、離れたくない……」

涙が、無意識に、颯を求めて、ポタンと重力にそって、落っこちていく。

「僕なら泣かせない。美弥は、僕の初恋の人だから」

「え?」

「……ずっと好きだった。小さい頃から美弥が……初恋なんだ」

思わず見上げた、長身の千歳の綺麗な瞳と交わった瞬間、あっという間に唇は、千歳に奪われる。
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