green mist      ~あなただから~
「母さん、弁護士の仕事が大好きだろ? 元の旦那さんは、小さな洋食店を経営していたらしい。お互い、仕事が忙しかったのだろうが、母さんは、弁護士の仕事を理解してもらえなかった。そして、相手の仕事も理解出来なかったと、とても苦しんでいた。だから、お前の事だけじゃなく、香音さんの事も心配したんだと思う」

 一瞬、驚いたが珍しい話でもない。いくら親でも知らない事もある。母は母の人生を歩いて来たのだと、今更ながら実感する。
確かに、母なりに心配したんだろう……


「そうなのか…… 知らなかった。それなら、そう言えばいい。騙すような真似しなくてもいいのに」

「母さんらしいよ。弁護士としては、あらゆる視点で冷静に物事を見る事が出来るのに、母親になると、まったくもって不器用だからな」


「それで、弁護士の父さんと結婚したのか?」

「うん。だけど、私と母さんとじゃ、弁護士の方向がまるっきり違うからな。仕事上の理解が出来ていたかは、わからんよ。ただ、人として、母さんだから、良かったと思えた事は沢山ある。多分、母さんもそれが分かっているから、お前達の事も許したんだと思う。
 まあ、これから色々あると思うがもよろしく頼むよ」


「私、お義母さんに嫌われいると思ってました…… 心配して頂けただけで、すごく嬉しいです。こちこそ、至らないと思いますがよろしくお願いいたします」

夏音が、目を潤ませて頭を丁寧に下げた。


結局、母さんを説得したのは、おやじなんだろう…… そういう人達だから……


「それでもって、俺は誰の子?」

 まあ、どうでもいいが、一応聞いておきたい。

「私に決まっているだろ」

 おやじが呆れたように俺を見た。

「そっかあ。ずっとおやじとは似てないと思っていたんだけどな」

 半分本気で言った。


「ええー そっくりですよ」

 彼女が、可笑しそうに言った。

 彼女と顔を見合わせ、おやじと三人、声を出して笑った。

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