green mist      ~あなただから~
 香音と二人で事務所を出ると、甘い匂いが鼻を掠めた。嫌な予感がする。

「時川君」

 やっぱり……

 やっと、母が納得したのに、また、いらぬいざこざはごめんだ。


 香音と二人で振り向いた。

「こんにちは」

 香音がペコリと頭を下げた。


「こんにちは。彼女が事務所に来るなんて、珍しいわね」

 宮野が、意味ありげに俺を見た。


「色々と報告したい事があってな。うちの親、あまり家に居ないから、事務所の方が確実なんだよ」

「そう…… 二人とも、仕事中心の生活だものね。私、時川君に話があって来たのだけど、いいかしら?」

 宮野が、香音の方を見た。

 香音を抜きで話をしたいなんて、失礼にも程がある。断ろうとしたのだが……


「はい。私も、見たいお店があるので、行ってきますね。お話して来て下さい」

 香音は、笑顔を俺に向けた。その目が、ちゃんとケジメをつけて来いと言っている。最近、香音の目が何を言っているかわかる気がする。

 確かに、中途半端な事をして、香音を不安にしたくはない。


「ごめんな。すぐ連絡するから、あまり遠くに行くなよ」

「はい」

 香音は、宮野に頭を下げると歩き出した。
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