green mist      ~あなただから~
 ~香音~

 いい香り……
 緑の葉と白いバラのブーケを手にした。
 森の中の小さな教会。青空が広がり、緑に囲まれている。
 

「ねえちゃん、すごく綺麗だよ!」

「おめでとう…… 良かったね。わしも嬉しいよ。あの弁護士さんなら、必ず守ってくれるよ」

「水野ちゃん。真央を頼むよ。おめでとう」

「おめでとう…… 困った事があれば、いつでも事務所に来なさいね」

「おお。香音ちゃん。こんな綺麗な花嫁が私の娘になるなんて。幸せだー」

「香音…… おめでとう…… 緑がいっぱいで、幸せだよ…… ふえぇーん」

 
 皆からの言葉が胸に熱く響いてくる。

 苦しい時、いつも誰かが、私に、言葉をくれた……
 その言葉が、私に、私である事を気付かせてくれたから……


「香音」

 優しい声が、緑の中に揺れた。タキシード姿の彼が、私を見て微笑んだ。


 一台のタクシーが、教会の前に入ってきた。
 運転手がタクシーから降りて、後部座席のドアを開けた。

「お迎えにあがりました。本日は、おめでとうございます。これも何かの縁ですね。本当に、お似合いのお二人ですよ」

 あの時の、運転手さんだ。偶然なのか? 多分、彼からのサプライズだろう。

 彼を見ると、眉毛を少し上げて微笑んでいた。


 このタクシーは、一歩踏み出せない私達の背中を押してくれた。
 これからの私達に、力強い未来がある事を教えてくれている気がした。


 彼の手を取り、タクシーへと歩いた。

 緑に潤った、優しい風が頬を掠めていく。


 彼が私に、優しく微笑んだ。

 私は、あなたと歩む道を選らんだ……

 あなただから…… 
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