green mist      ~あなただから~

ライバル

 ~香音~

 綾乃に連れられ、駅前の最近オープンしたばかりの居酒屋に入った。渋々付いて来たのだけれど、自分でも色々な心の内を消したいと思ったのも確かだ。

 綾乃と私の他に、総務女の子が誘われたようだ。私達より先に来ていた男性三人と向き合って座る事になった。初対面の人と話をするのはあまり得意じゃない。それにくらべ、私以外の人達は、なんの抵抗もなく盛り上がりはじめた。男性のうち一人は、会社に出入りしている人らしく、私を見かける事があるらしいが、全く見覚えがない。

 とにかく頷いたり笑ったり、飲んで食べてその場を取り繕った。向かいに座った男性が、やたらに話かけてくる。自己紹介で名前を言われたが、忘れてしまった。

「俺、弁護士目指しているんです」

 ふと、から揚げを食べようと思った箸がとまった。まだ、大学生らしい。弁護士か…… この人も、十年もしたら時川さんのようになるのだろうか? あんな風に、落ち着いた素敵な男の人に……


 いやいや、何を考えているんだ。心の中の首を横に振った。

 弁護士に反応してしまった私が悪かったのだろうが、その人は、やたらに法律だの正義だとか話してくる。別に、若い人がみんなそうだとは思っていないが、この人達の話し方や仕草が少し雑な気がする。なかなか話の内容に共感出来ないのだが、こんなものなのだろうか?


 そろそろお開きにならないかなと思っていると、支払いの方向になった。財布から千円札を数枚出した。終わりになると思ったのだが、カラオケに行く話が出始めた。
 帰りたいなぁ…… 行かなきゃだめなのかな?

 その場を逃れるように、そっと席を立ちトイレに入った。

 カラオケの話どうなったのだろうか、皆が行くと言うなら、行くしかないか……

 鏡の前で、少し乱れた髪を整えてトイレから出た。テーブルの方を見ると、カラオケに行く事が決まったようだ。


 壁にもたれ、このまま私に気付かずに行ってくれないかぁと天井を見上げた。


「そろそろ、帰りましょうか」


 横にならんだ人影から聞き覚えのある声がした。
 私に言ったのだろか? 

 ゆっくりと、顔を横に向けた。
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