green mist      ~あなただから~
 「時川さん!」

 驚きすぎて、声が掠れてしまた。

「おひらきのようですし、帰りましょう? それとも、彼らとカラオケ行きますか?」

 首を大きく横に振った。


「でも…… なんて断れば……」

「気が進まない時は、はっきり断ればいいのでは?まあ、急用が出来たとでも言っておけばいいと思いますが」

 そうだ、別に無理に行く必要は無いんだ。

「はい。断ってきます」

 急いで、皆の元へ走った。

 綾乃にごめんと必死で誤った。他の人達にも挨拶した。腑に落ちないような顔をされたが、皆に背を向けた。

「ねえねえ、ちょっとだけでも行こうよ」

 だが、弁護士志望の男に、腕を引っ張られてしまった。まだ、しつこく誘ってくるようだ。困ったな。


「すみません。急用が出来たので、彼女を迎えにきました。帰らせて頂きますね」

 引っ張られた腕をかばうように、引き戻してくれた人がいる。
 顔を見なくても、誰だか分かった。

「ああ、そうだったんですね。どうぞ、どうぞ」

 私の腕をつかんでいる時川さんの姿を見た綾乃が声を弾ませた。綾乃は、皆を追い出すように、店の出口に促すと、手をふりながら、意味ありげな笑みを向けてきた。

 休み明け、しつこく聞かれそうだ。


「帰りましょうか?」

「はい」

 うん?
 窓際のテーブルに座っているスーツ姿の男性が、こちらを見てニコニコと手を振っている。

「お連れの方じゃ?」

 その男性の方へ目を向けると、彼もチラっと見たのだが。

「いいえ」

 嘘。絶対、一緒に飲んでいた人だよね。
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