green mist      ~あなただから~
 へっ?
 はい?

 個室だと分かってはいるけど、なんとなく後ろを振り向いた。他に、誰かいるのかも?

「あなたに、言ったんです。香音さん」

「あっ……」

 名前で呼ばれたよね? 本当に、私に言ったんだ。何かの間違いじゃないだろうか? 視線が彼から離せない。


「もちろん、分かっている。あなたと、年が離れている事も、仕事柄あなたの思うような時間が作れないかもしれない。でも、あなたが襲われそうになった時、もう、こんな思いをするのは嫌だと思った……」

 彼の目が切なそうに私を見た。

 正直パニックだ。こういう時は、ちゃんと答えないといけない。私みたいな物にどうして?自分が、ダメな人間だってことも伝えないと。

 じっと彼が、不安そうな目で私を見ている。

「あの…… あの、私、時川さんの事、大好きです!」

 勝手に口から出ていた。


「えっ?」

 驚いた顔の彼が見えた。

 やばい、きちんと答えなきゃと思えば思うほど、テンパっていく。


「あ、事故を起こしそうになって助けてもらった時から、ずっと気になっていて…… でも、年も離れているし、弁護士さんだし…… でも、映画に一緒に行けて嬉しくて……」


「ちょ、ちょっと待って…… あの…… それ本当?」

「勿論です!」

 私は、自分の両手を握った。


「僕…… 凄く嬉しい。これから、よろしく」

 彼が、頭を下げた。

「よろしく、お願いします」

 私も頭を下げた。顔を上げると、彼が笑っていたので、つられて私も一緒に笑った。

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