green mist      ~あなただから~
「こんにちは。具合はどう? 倒れたって聞いてびっくりしたわ」

「宮野。どうした?」

 何故、宮野が来るんだ? 思わず、香音の顔を見た。遠慮がちに笑顔を見せている彼女は、何を思っているだろう?

「どうしたって、お見舞いに来たんじゃない。あら、あの時の子ね。こんにちは」

 宮野は、彼女に向かって笑った。

「こんにちは」

 彼女が、ぺこりと頭を下げる。

 あー。もうなんだか、嫌な空気だ。早く退院したい。


「私、そろそろ、帰りますね」

 彼女がテーブルに置いてあった鞄を持った。なんで、わざわざ早退までしてきた彼女が帰らなければならないんだ。

「まだ、いいよ。話したいこともあるし」

「ええ」

 彼女は困ったように立ち止まった。


「水野さんとおっしゃったわね。宮野さんともお知り合いのようね。宮野さんは優秀な弁護士さんなの。今日も忙しいところわざわざ、真央のお見舞いに来て下さったのよ。水野さんにも、お世話になったわね」

 宮野の事を今ここで褒めるあたり、母が何か企んでいるように思える。早く、退散させた方がよさそうだ。

「いいえ、私は……」
「母さん…… 見舞いは有難いけど、俺、休みたいからさ。明日、退院できそうだから、もう、来なくていいよ」

 彼女の言葉を遮るように言った。


「来なくていいって事はないでしょ。まあ…… 顔も見られたし、元気そうだから帰るわね」

「おお。そうしてくれ。また、ちゃんと話に行くから」

「ふうっ……」

 母は、ため息をつくと、宮野を連れて帰ってくれた。ため息をつくのは、こっちの方だ。


「ごめんな」

 立ち尽くしている彼女に向かって言った。

「えっ? 何がですか? 私こそ、お母様にちゃんとご挨拶も出来なくてごめんなさい」

「そんな事はないよ。こんな形で、顔合わせになってしまって、悪かった。また、改めてきちんと挨拶に行こう」

「ええ……」

「それから、宮野の事も気にするなよ。母が勝手に連れてきただけなんだから……」

「うん……」

 腕を伸ばして、彼女の頭を撫でた。

< 78 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop