green mist      ~あなただから~
 翌日……

 病室のドアがノックされた。

「はい」
「失礼します。具合はどうですか?」
「香音! 仕事は?」

 予定の時間より早い見舞いに、テンションが上がる。

「うん。ちょっとだけ早退しちゃったの」

 彼女は、悪い事をした子供のように小さくなって言った。自分のために、早退してくれたと思うとなんだか愛おしくなってくる。その反面、香音が待っていると分かっていても、まともに時間を取れなかった事が悔やまれた。自分のために時間を作ってくれた事が、こんなにも嬉しいもなのに……



「そうなんだ。悪い事しちゃったね。でも、待っていたらか嬉しいよ」

「本当に?」

 彼女は、嬉しそうにベッドの傍に走ってきた。俺は手を伸ばして、彼女の体を自分の方に引き寄せた。驚いた顔の彼女の唇に、遠慮なくキスをした。
「ちょ、ちょっと、ここ病院ですよ!」

「別に誰も見てないし。せっかく休んでいるんだから、キスぐらいいいだろ?」

 ニコリと微笑むと、彼女の顔が赤らむ。本当に可愛い。自分でも、こんなところでお構いなく手を伸ばしてしまう事に驚く。俺って、こんな人間だったかな?


「思ったより、元気で良かったですけど……」

「そんな事ないよ。しっかり傍で看病してもらわないとね」

 彼女の体に手をまわしたまま言った。

「もう、離してくださいよ。それより、矢沢さんが事務所に入って下さるそうで、良かったですね。今までみたいな忙しさじゃ、また倒れるんじゃないかと心配ですから」

「まあな。これで、香音と旅行に行けそうだ」

「本当ですか?」

 彼女が、俺に飛びついてきそうになったのに……
 コン、コン
 病室のドアがノックされた。


「真央、具合はどう?」

 なんだよ。このタイミングで来なくてもいいのに。
 彼女が、慌ててベッドから離れて頭を下げる。

「そんなに、気を使わなくていいよ」
 
 彼女に手招きしながら言った。


「あら、いらしていたのね」

 母の少し冷めた声の後ろから、甘い匂いと供に人影が見えた。
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