green mist      ~あなただから~
 宮野社長とは、ホテルの一室で話をする事にした。母と宮野は部屋には入れない。母と宮野とも話す事などない。

「真央くん、何か気になる事でもあるのか?」

 ソファーに座り、宮野社長はコーヒーを口に運んだ。


「いえ」

「そうか? 仕事の前に一言だけいいか?」

「はい」


「娘の事だが、代表は、君との結婚を望んでおるようだ。二人がそのつもりがあるなら、勿論、いい話だと思う。
だが、悪魔でも、これは二人の問題だと思っている。仕事に左右させるつもりもない。まあ、君も分かっているようだったが、一応、私の考えも伝えておくよ」

「申し訳ありません。母が失礼な事を申し上げたようで……」

「素晴らしい弁護士だが、母になると余裕が無くなるようだな。まあ、仕事の話の前に、雑念は捨てておきたいからな」

「そのようで、母には困っています。私も、仕事に集中したいと思っておりますので。ありがとうございます」

 俺は、頭を下げた。

「仕事もいいが、大事な人は自分で守らないと、後悔しても遅いからな」

「えっ?」

「それじゃあ、始めるか」

 宮野社長は、秘書に指示を始めた。



 
 プルルルル……

 スマホの画面に映る香音の名をスライドするが、繋がらない。

 ホテルの事で、香音が傷ついていると思う。母が何と言ったかは知らないが、俺は、見合いをしたつもりもない。ただ、宮野社長の弁護は引き受けるつもりだ。

仕事はきちんとするが、宮野の事は関係ない事をちゃんと話したい。

 また、仕事が忙しくなれば、あまり時間が取れなくなる。すれ違ったままでは、取り返しのつかない事になる気がした。


 たまらずに、彼女のアパートに行こうと席を立ったとき、鳴り続けていたスマホが色を変えた。

「もしもし……」
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