green mist      ~あなただから~
「香音?」

「はい」

「良かった、繋がって……」

「ごめんなさい……」

 曇っている香音の声が、スマホを通じても伝わってくる。


「今から、会えないか?」

「あの…… 今は、会えないです」

 会えないってどういう事だよ。

「どうして?」

「気持ちが、まとまらないんです」

「まとまらないって何が? 今日の事気にしているだろ? 見合いしたつもりもないし、だいたい仕事の打ち合わせで行ったんだ」

「分かってます。だけど…… いくら真央さんがそう思っていても、状況がそうは行かなくなります。今日だって、真央さんの知らないうちに、お見合いが進んでいたんですよ」


「そうだな。でも、俺は香音以外の人を考えてない。だけど、仕事は仕事できちんとやりたいんだ」

「うっー。ひっく」

 彼女の声が、泣き声に変わった。


「俺に、どうしろって言うんだ? 俺が見合いじゃないって思っているのに、それじゃダメなのか?」


「だから…… 分かっているけど、気持ちがまとまらないから、会えないって言ったのに…… 自分でも、子供っぽくて、我儘な事言ってる事ぐらい分かってます。こういう時こそ、信じられるようになりたいって」

「だったら、会っては話そう…」



「出来ないです。どうしても…… どうしても、お見合いが嫌だったの…… うっ…… だから、少しだけ、時間を下さい」

 香音が嫌な思いをした事は分かっているつもりだ。だからこそ、俺に会って、ちゃんと気持ちをぶつけて欲しいと思った。時間が欲しいって事が、俺には距離を置かれてしまったようでたまらなかった。


「香音は俺を、許せないって事?」

「……」

 彼女から返事は無い。


「分かった、もういいよ……」


 俺の方が、大人になれなかったのかもしれない。

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