green mist      ~あなただから~

二人の約束

 ~香音~

「姉ちゃん、どうしたの?」

「えっ?」

彼との電話から数日が過ぎた。いつものように、良介君が銀行のフロワーで手伝ってくれている。


「ほら、これでいいかな?」

おじいさんが、銀行のロゴの入ったポケットテッシュを差し出してくれた。

「えっ?」

「姉ちゃん、泣いているよ」

気付けば、目から涙が落ちていた。

「あれ?」

「おじさんが何かしたんだろ? だから、おじさんには任せられないんだよな!」

良介くんが、心配そうに覗き込んでいる。

「何を言っておるんじゃ?」

おじいさんが、呆れたように良介を見た。


「あの弁護士さんと、喧嘩でもしたのかな?」

今度は、おじいさんが私の方を見て優しい声をかけてくれた。

「喧嘩なのですかね? 私が我儘を言っているだけなのかもしれません。彼に見合うように、大人にならなきゃと思うのに、結局、困らせるような事を言ってしまって……」


「まあ…… 誰かと一緒に生きて行くって事は、簡単な事じゃあないからねえ。だけど、難しい事でもない。相手を愛おしいと思う気持ちだけでいいんだよ。
でも、つい、相手に求めてしまう事が多くなる。こうして欲しいとか、これが当然の事だとかね」

「そんな…… そんなつもりは無いんです。でも、嫌だったんです……」


「嫌だと思う事を無理に我慢しなさいと言っている訳ではないよ。嫌だと思う気持ちも自由なものだからね。しかし、なぜ、嫌だと思ったのかな?」


「なぜ? 約束したのに…… 裏切られたと思ったから……」

「おじさん、ねえちゃんを裏切ったのか!」

 良介くんの、叫んだ声が銀行のフロワーに響いた。
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