green mist      ~あなただから~
 「香音、どうしたのよ? 急に飲みに誘うなんて」

 待ち合わせた居酒屋で、向かいの椅子に綾乃が座った。


「ごめんね。予定があったんじゃない?」

「そんなの無いわよ。飲めるなら、いつでも大歓迎よ。まずは、生ビールね」

 綾乃は、テーブルの上のタブレットに手を伸ばした。

「うん」

「それで、あの弁護士さんね?」

「まあ…… 」

 綾乃に、彼の母との事、彼との約束の事、おじいさんに言われた事を話した。


「そう…… 香音の嫌だって思った気持ちはよく分かるわ。そりゃ、自分の彼氏だもん。でも、おじいさんの言葉も考えさせられるよね?」

「そうなの…… ちゃんと彼の事、理解しようと思っていたのよ。忙しい事だって分かっていたから、迷惑かけないようにしようと思っていたし、年も離れているから、我儘にならないようにしようと思っていたのよ。でも、他の女の人の存在が出てくると、どうにも冷静になれないっていうか……」


「香音、不安だったのよ。彼の母にそんな事言われたら、誰だって自信が無くなるものよ。だから、約束って形で、信じられる根拠が欲しかったんじゃない?」

「でも、結局は喧嘩の原因になっちゃった」


「彼の母にしたら、こうなる事は計算されていたのよね。もちろん、その弁護士の女と結婚を望んでいるだろうけど、それより、彼に裏切られたと思わせる事が目的だったんじゃないの? 少なくとも、今は、彼の母の方が一枚上手よね。二人して振り回されているんだから」


「はあー。私、何やっているんだろ?」

 テーブルの上に両腕を付いて、ため息をついた。
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