green mist      ~あなただから~
 「真央さん、顔上げて下さい」

 私は、彼の前に座って、話しかけた。

「嫌だ!」

 えっ? 嘘でしょ…… 子供じゃないんだから……

「もう、ずっと、この調子なんだよ……」

 矢沢さんは、手にした水割りのグラスを口に運んだ。


 私は、真央さんの肩を揺さぶるように叩いた。

「真央さん! 香音です。顔を上げて下さい」

 何度か、揺さぶるとようやく彼は顔を上げた。

「香音?」

「だから、私だって言ってるじゃないですか!」


「か~の~ん~だ~あ~」

 彼は、私の首に抱き着いてきた。

「ちょ、ちょっと、しっかりして下さい! こんな所に座り込んでいたら、皆さんの迷惑になります。帰りますよ!」


「いい加減にしろ! 本当に、水野ちゃんに捨てられるぞ!」

 半分怒ったように、矢沢さんが水の入ったグラスを差し出した。

 彼は水を一気に飲み干すと、深くため息をついた。ぼーっとしたまま私を見つめる真央さんは、まだ半信半疑のまま私の頬を撫でた。

「ああ! 本物の香音だ! どうしてここに居るんだ」

「はあ……」

「ほう……」

 矢沢さんと私は、同時にため息をついた。


「迎えに来たんですよ。一緒に帰りましょう」

「香音? 一緒に帰ってくれるのか?」

「帰りますよ。だから、立って下さい」

「香音~ 俺、香音が居ないとダメなんだ」

 本当に情けない声で、今にも泣きそうな顔を向けた。


「私だって、真央さんが居ないとダメなんですよ」

「本当に?」

「ええ……」

 真央さんが、私を抱き寄せた。


「もう! いいから、家でやってくれ。早く、立てよ!」

 矢沢さんが、彼の肩を抱えて持ち上げた。

 私も、反対側の彼の腕を抱えた。
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