甘い災厄
「もう、一回言って」
さっき、まつりに言い聞かせられたとき、なにかが、胸のなかにじわっと広がった気がした。
それをもう一度感じたくて、頼んでみる。
「きみは、ちゃんとした人間。感覚や感情を正しく知らないってだけだよ」
もう一度言ってくれる。嬉しい。
まつりは、ハッと気付いたように少し黙った。
「どうかした?」
「いつも、まつりを心配してその話ばかりしているから、きみは自分のことについての話は、ほとんどしていなかったよね」
そう。もともとぼくは、まつりの記録係だった。だから、ぼくの感情の話はあまり詳しくはしてない。
「だって、よく、わからないから。言えることも無くて。まつりのことは、見ていればわか――」
最後まで言わせてもらえなかった。
布団のなかで、ぼくをぎゅっと抱き締めて、まつりは言う。
「そうだよね、わからないことは、話すことさえ出来ないよね。気付いてあげられなかった、ごめん」
何を、謝るのだろう。
よくわからない。
「きみのことを、ちゃんと、考えてあげれていなかった」
「そんなこと無い」
「んーん、思えば、誤解でも、『話せばわかる』って、『ちゃんと言わないから』って、まつりは、注意したつもりで、きみに投げていた」
「だって、それはぼくが悪――」
「きみは、解らないことを、解らないまま話さなきゃならなかった。
なのに、それが、当然だと思って、まつりを怒ることもせずに、受け入れてた」
なんて残酷なことを、させてたんだろう。
まつりは、そう言って悲しそうにした。
「怒られるのは、当然だ、知らないんだから」
「違う。一度も聞いたことも、実感したことも無いものを、やれなんて言って、それを責めるなんて!」
「? ぼくは、平気だ」
まつりがそうやって、ぼくを思ってくれているというだけで。
だから。
「続き、してよ……」
甘えた声を出しながら、まつりにしがみつく。
「きみは、どこでそういうの、覚えるの?」
あきれたような目をしながら、聞かれて、少し考えた。そういうの?
「……なにも?」
「無自覚か」