捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?

(トムソン、頑張れ…!)

ひとまずローズ嬢の元へトムソンが向かう。声を上げると目立つから、心のなかで同僚を応援した。
すると、アスター王子から声が掛かる。

「ミリィ」
「はい」
「……踊ってもらえるか?」

少し腕を突き出した格好の彼は、照れているのか耳がほんのり赤くなってる。確かに、こうして盛装して2人で踊る機会なんて滅多にない。遡れば狩猟館でのパーティ以来だった。

「はい、それはもちろん。ぼくはあなたのパートナーですから」

くすりと小さく笑うと、「わ、笑うな!」と言われましたけど。その余裕のなさがまたかわいい。

アスター王子は艶のある落ち着いた色合いのグレージャケットとストレートのズボンを着用していて、わたしの光沢のあるシルバードレスと近い色合いだ。たぶん、わざわざ合わせてくださったんだろう。
髪もいつもよりきちんと整え、シャツの胸もとにはわたしの肖像画入りのメダリオン。婚約者持ちや既婚者の証だ。

公の場できちんと身に着けてくださる。婚約者ならば当たり前かもしれないけど、それだけでなんだか嬉しくなってしまう。

アスター王子の腕にそっと手を添えると、少し触れただけで彼が緊張するのがわかる。いちいち反応が過剰だから、みんなにからかわれるんだよね…と思うけど、わたしはその仲間にはなりません。

「アスター王子、大丈夫ですよ。ぼくがついてますから。なにかあったらきちんと護って差し上げますからね」
「……それは、男が言うべきセリフだが。相変わらず頼もしいな、ミリィは」

苦笑いしたアスター王子とともに、次の曲が始まるタイミングでダンスフロアに出た。

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