【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?
アスター王子のこんな顔は珍しい。
とはいえ、この1年ともにいて気づいた事がある。
周りが彼を英雄だとか憧れの騎士だとか騎士の中の騎士だと持ち上げる度に、本人は複雑な顔をして否定していた。
僻地にいたわたしでさえ、アスター王子の活躍ぶりは風の噂でよく知ってる。つまり、国民のほとんどが知ってるということ。
フランクスがアスター王子と会った時に緊張して憧れてます!なんて言ってたくらい、従騎士の中では一番の目標にされる存在なんだよね。
まぁ、アスター王子自身目立つことはあまり好きじゃないみたいだけど。彼がそう否定する背景はそれだけではない気がする。きっと、単純な理由じゃない。
訊いていいものか、と躊躇してしまう。
きっと、これはなにかトラウマに関わる……いわゆる地雷かもしれない。過去にひどく傷ついた経験があって、それを無理やり引きずり出し傷口を開かせることになりかねない。
さすがにわたしだとて、遠慮なく訊けることに限界はある。
悶々としながら座ってお茶を飲んでいると、ポツリとアスター王子が言葉を漏らした。
「……アスカーガの戦い」
「………」
なにを答えていいかわからず黙っていると、彼はポツポツ続けた。
「それだけじゃない。オレが活躍したと言われている戦果は……実は大したことじゃない。皆、尊い犠牲あってのものだ。若さゆえに無謀な挑戦をした挙げ句、優秀な上司や部下を失ったんだ……」