【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?

「……ええい、くよくよするな!女は度胸だ」

自分自身のほっぺたを両手で叩いて、気合いを入れ直した。
パァン、と見事な音が浴場に響き渡る。

(そもそも、あのレスター王子がそんなだいそれた事をできるはずがない。いつも安全な場所で喚き散らすだけがせいぜい。……誰が教え諭しても、耳を傾けるどころかいつも反発するだけの幼い人間(ひと)だ)

わたしが知る限りのこの数年だけでも、レスター王子は変わることがなかった。よくも悪くも自分に正直で、わがままな身勝手王子。楽な方に流されてばかりで、何かにつけて自分の地位や血筋をひけらかす。

アルベルト王子のように政務で国王陛下の補佐をするでもなく、アスター王子のように騎士として身を立てるでなく。ただひたすら王妃の長子である王子という身分血筋にあぐらをかいていただけだ。

王子という地位を消費するだけで、なにも生み出さない。

(そうだ。レスター王子を恐れる理由などない。たとえドン・コレッツイ経由でフィアーナ王国の副王に利用されていたとしても)

今までの情報を総合しただけで、わたしでさえ簡単に推察できる。ゼイレームとの国境を狙うかつてのゼイレーム王家の末裔であり、裏切ってフィアーナ側に寝返った副王。領土拡大を狙い、ゼイレーム内部に混乱を仕掛けたり度重なるドラゴンの襲撃等をたくらんできた。
けれどもそれらはことごとく失敗し、逆にゼイレームの力になる結果をもたらしている。

となると…焦った奴らはきっと内部からの企てを画策するはずだ。
一番わかりやすいのが、レスター王子の反発心を利用すること。

アスター王子の立太子はもはや確定的だ。どう足掻こうとそれは覆らない。
だから、敗れたレスター王子を唆して利用するのは容易いだろう。
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