【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?
「……あれ?」
近衛騎士団の浴場から出てすぐ、違和感を覚えた。
出入り口で警備をしていた女性兵の姿がない。
明日の婚姻式に向けて各国の賓客が集まる今、王宮のみならず敷地内は厳戒態勢になっている。近衛騎士団の敷地内ですら、普段は居ない近衛兵が警備に当たってる。
つい先ほど入る前は2人の女性兵士と挨拶を交わした。
でも、今は……影も形もないし、なんなら灯りすら消されてる。
わたしの中で、けたたましく警報が鳴る。
携帯しているブラックドラゴンの短剣の柄に手を掛けながら、慎重に足を踏み出した。
ガサリ、と灌木が動いたから咄嗟に抜刀し、そちらへ向けて短剣を構える。
「誰だ!?」
厳しい声で誰何すると、そこから現れた姿を見た瞬間……全身が総毛立った。
「やぁ、愛しいハニー。ボクのために身を清めていたんだね」
「うげっ゙」
反射的に変な声が出たのは仕方ないと思う。誰だってそうなるだろう。
いきなり夜中にキラキラ輝きながら究極のナルシスト勘違い男が出現したら。
魔術かなにかわからないけれども、全身が七色に輝いているんですよ。身につけたシャツとズボンとサコッシュは確かに滑らかで光る素材だけど…身につけた衣類すべてにスパンコールやビーズやら宝石やら花やら飾って、しかもキラキラと不自然に光り輝いてる。まるで物語の道化師かなにかのようにしか見えない。
「愛しのハニー…ようやく迎えに来てあげたよ。ずいぶん怖かったろう?悪い王子に囚われて…だが、安心したまえ!ようやく美しく麗しき良き王子のボクが来たんだ。安心したまえ!!」
……レスター王子の安定したおバカ加減で、なんとなく安心したけど。