【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?
「ふう〜生き返る…」
近衛騎士団の女性専用浴場で、思わずため息をついてしまう。最近多忙で疲れが溜まっていたから、温かいお湯に身体を浸けた瞬間にそう口にしてしまっていた。
去年王城の敷地内で源泉が発見され、それを引き込んだ浴場があちこちに設けられた。お風呂好きなわたしにはありがたい。
(……いよいよ明日、かぁ)
あごの下までお湯に身体を沈めると、揺らめく水面にぼんやりと光る灯りが映し出されるのが見える。
湯気のもやの中に居るのは、わたしひとり。
日付けも変わる遅い時間帯だから、仕方ないけど。
正直な話、不安がある。
馬上槍試合については、自信がある。
今までトーナメントを目標に最大限の努力はしてきた。
エストアール家の騎士として、全力で名に恥じぬ戦いはするつもりだ。
それよりわたしの懸念は、アスター王子とわたしの正式な婚姻についての発表、及びアスター王子の立太子の宣誓だ。
婚約自体は昨年のうちに正式に公表されていたから、それはいい。今はきちんとアスター王子の妃になる覚悟もあるし、彼が好きだと自覚している。彼からもぼんやりとだけど告白もされた。
周囲からも認められ、祝福されている。
それでも胸のうちに、なぜか不安が拭いきれない。
まるで、きれいな水に一滴の墨が落とされたような。そんなもやっとした不安が、湧き出してくるんだ。