【完結】捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?
「おお、わが愛しきミューズよ!」
レスター王子は酔ったように寝言をほざいてるから、それは右から左へ聞き流す。
(やはり…レスター王子の性格を利用された)
近衛騎士団の本拠地でもある城の敷地内は、高祖母様とソニア妃の結界が張られている。それは、害意や悪意や敵意ある存在を排除するもの。
けれど、もともと悪意も敵意も害意も無かったら?
レスター王子はそもそも単なる自己中心のわがまま身勝手な王子だ。はっきり言ってよく考えず、自分の心に忠実で隠し事などできない。よくも悪くも素直な幼い子どものようなひと。
彼をそそのかしいいように利用するなど、赤子の手をひねるより簡単だろう。
だからきっと、ドン・コレッツイとバーガを通じて副王が仕掛けてきたんだ。
“あなたが王になれるようにします。意中の女性も妃にできますよ”だとかなんだとか言われたんだろう。
油断なく短剣を構えながら様子を窺っていると、レスター王子の背景がゆらりと揺らめく。黒い靄が湯気のように湧き出し、それが人の形を取って無数に湧き出してきた。
「これは…!?」
『呪いの人形(ひとがた)だ。瘴気によって作られている。触れたら焼けるぞ』
ブラックドラゴンの解説でやはり容易でない事態だと理解した。
「……わたしには魔力がない。どうすれば?」
『私の短剣を使え。奴らは聖獣の牙や角を恐れる。私の角でできた短剣ならば祓えるだろう』
「……わかった!」
短剣を構えたまま、思いっきり地面(?)を蹴った。