捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す2〜従騎士になったら王子殿下がめちゃくちゃ甘いんですが?

「……!」

視界が真っ赤に染まり、激痛が身体じゅうを走った。流れ出す大量の血に合わせて心臓がどくどくと強く脈打ち、呼吸を忘れそうになる。

でも、とわたしはそれを強く念じて制する。

(痛みを感じるならば、生きている証だ。大丈夫……わたしは戦える!)

その先に存在するだろう呪術師を、思いっきり睨みつける。

「……やはり、あなたがフィアーナの副王を唆した呪術師か」
「ほう…さすがにエストアールの娘よ。普通ならばこれだけで気を失うかショック死しかねないが……しぶとさは折り紙付きよの」

くくく…と愉しげに呪術師は喉の奥で笑う。胸の奥が引っ掻かれたような、不愉快極まりない声だ。

「どこまでしぶとく生きるか、少しずつなぶるのもよい。さぞかし胸がすくことだろうよ。さっきのでうめき声一つすら挙げなかったが……これはどうかの?」
「!!」

突如、周りの何もない空間の密度が濃くなり、周回のすべてから押しつぶされるような圧力を感じた。

身体じゅうの肌のという肌が重さを感じ、骨がギシギシときしむ。

「くくく……ほれ、早く降伏しわしに従わねば、醜く潰れて死ぬことになるぞ?…そろそろわしの魔獣兵も城を取り囲んだ頃合いじゃ。ようやく…わしが王になるのじゃ!」


朦朧とする視界の中で必死に周囲を見ると、確かにいつの間にか異形の動物のような二足歩行の武装兵が無数に城内に入り込んでいく。

呪術師の快哉を叫ぶ高笑いが、夜の闇に響き渡った。
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