もっと求めて、欲しがって、お嬢様。
パシッと腕が取られた。
伝えたくても伝えられない───そう読み取れる顔をして、嘆くように碇は唇を噛む。
「…わかってください理沙お嬢様。俺は、佐野様を前にしたら…耐えられるか不安なんです、」
「…耐えるって……なにをよ、」
「執事としてはいられなくなるかもしれない、ということです、」
「だからどうしてよ…っ」
どうしてそんなことを言うの。
執事としていられなくなるって、どうして…?
「…俺はCランクです、そこまで出来た執事ではありません。……来月、佐野様はこちらにいらっしゃるんでしょう?
あなたと佐野様が並んでいるところを…、見たくないのです」
「ちがうわ、私が聞きたいのは…執事としてはいられないって…、」
「…男としての俺が、見たくないんですよ」
“執事として”じゃなく、“男として”。
碇が言っている意味をやっと理解してしまった。
「行くな、とは…執事の立場では言えないじゃないですか、」
「……いか、り、」
「もし男として言っても許されるのなら、───…佐野のところになんか行かないでくれよ」