もっと求めて、欲しがって、お嬢様。




時間が、ふわっと止まった。

言葉の意味を理解しようとすると気持ちはどうしてか落ち着いて、涙は引っこんでしまったと思ったのに。



「っ…、」



どうしようもできない気持ちと、どうにかでもしたい気持ち。

溢れては頬にひとつひとつ流れてゆく。


けれどそこには確かな気持ちがあった。


うれしい、なんて思ってしまったこと。

こんなの……言えるはずがない。



「…すみません、困らせてしまいました。このままでは目が腫れてしまいます。ホットタオルを用意してきますね」


「いやっ、行かないでっ」


「……理沙お嬢様、」



初めてだった。

本心だろう言葉が飛び出して、引き留めるように私から掴んでしまったのは。


そもそもあんなに怖がってたのにリビングまで行けるの…?



「…これくらい…平気だから。あなたがいなくなると、寒いのよ、」


「…わかりました。……ではもう少し、くっついてもよろしいですか…?」


「っ、か、勝手にすればいいでしょ、」



考えたくない。


もうすぐやってくる、

今年は佐野様も参加すると言っていた、聖スタリーナ女学院の伝統行事───舞踏会のことなんて。



< 78 / 212 >

この作品をシェア

pagetop