このキョーダイ、じつはワケありでして。




「カレー、たべる」


「ん。ちょっと待ってな」


「…兄ちゃんもまだ食べてなかったの?」


「おまえが起きるの待ってた」



鼻を刺激するスパイシーな香り。

兄特性カレーを食べたいがために、私は夢の中から目覚めたんだ。



「兄ちゃん、夢みた」


「夢?」


「うん。むかしの…夢」


「……昔って、いつ頃?」



市販のルーだし、隠し味もとくにない。

そんな兄のカレーだから、いい。



「兄ちゃんが施設の人と親戚一同に土下座したときの」


「あー…、うん。土下座は盛ったね」


「バレた」



今ではもう、テレビなんか滅多に見ない。

たとえ見たとしてもニュースにいちいち怯えない。


止まったままの針と、どうしても進んでしまう針が世の中にはあると思う。


どちらも残酷ではあるけれど、自然に任せることも私たちには必要なことだった。



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