このキョーダイ、じつはワケありでして。
これまでも兄のそういった話は聞いたことがなかった。
テツの言うとおり兄ちゃんは男前だ。
だれが見ても足を止めるくらいには格好いいし、20代にしては平均以上の稼ぎもあるし、相手がいないほうがおかしいくらい。
毎日毎日私のこと中心に生きている兄は、考えてみればもう24歳。
早くて結婚している人もいる年齢で、普通であれば自分の人生を自分で決めていい立場。
たぶんだけど、彼女とかもいないよね…?
今となって初めて気づいたくらい、彼は私の前では女の影すら見せなかった。
「ほんと今はいいんだって、そーいうの。昔いっぱい遊んで女には懲り懲りしたとこあるし、無理に決めるほうが乗らない。それに今の俺には───」
「受ける!テツっ、それ受ける…!!」
バッ!と、それまで集中していた男ふたりが目を開きながら勢いよく振り返った。
突如流れる不穏な空気すら気にもしないで、私は飛び出す。