このキョーダイ、じつはワケありでして。




このときの私は、兄ちゃんの言ったとおり甘く考えすぎていたんだ。


この場所に、この家に、他人がたったひとり加わってしまうだけで、すべてが180度変わってしまうこと。

今まで兄とふたりでゆっくり積み上げてきたものが、簡単に壊されてしまうこと。



「にいちゃん……さっきはごめん」


「俺は謝らないね」


「えっ、私もじゃあ今のナシ!!」


「ナシじゃ、ないだろ?」


「…………はい」



これは兄の幸せを勝手に決めつけているだけの行為なんだと。

単なる私の自己満足が、彼が今まで私のために大事に作りつづけてきたものを壊して、失くしてしまうことになるなんて。



「でも慶音。この先なにがあっても俺はおまえのたったひとりの家族で───…おまえだけの兄貴には変わりないから」


「にいちゃん…?」



ここに、この場所に。

すでに“今ある”兄の幸せが、私の幸せが、ぜんぶ揃っていたというのに───。



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