このキョーダイ、じつはワケありでして。
ああ、ちがう。
今日はありがとうございましたって。
楽しかったですって。
ナマコも嬉しかったです、って。
そう言いたかっただけなのに……。
「髪、きれいだよね」
「へ?」
「慶音の黒髪ストレート。初めて見たときから思ってた」
両親が居なくなってから切ることをしなくなった私の髪は、今では背中を隠してしまうくらい伸びていた。
先輩は毛先をそっとすくって、微笑む。
「…願掛け、してるんです」
「願掛け…?」
「いつか両親に会えますようにって。……11歳の私が」
なんでそんなに優しい顔をしているんだろう。
私もおかしい。
髪を触られて許せるのは兄ちゃんだけだったのに。
こんなチャラ男に触られたとしても嫌悪感すら感じていないなんて。
「ぜったいお父さんとお母さんはそんな慶音を見てくれてるよ」
「…うん」
やっぱり今日は変すぎる。
この男ともう少し居たいとか、思ってしまった。