このキョーダイ、じつはワケありでして。




空手の試合、天気が悪いのを知っていて「応援にきて!」と両親にワガママ言ったのは私だった。

うまくやれると思って「縁談受けよう!」なんて兄に言ったのは私だった。


なんにも、なにひとつ、笑顔の結果にはならなかったよ。



「もう放っとこうぜ。金だけでも盗ってく?」


「だな。つーかマジいてえ」


「おまえガッツリ蹴られてたもんな」



くやしい、悔しいくやしい、悔しい。

うずくまった場所に、ポタリポタリと染みができてゆく。


秋のつめたい風が「泣くな」と言うみたいに頬を撫でた───瞬間。



「ぐはァッ!!」


「うわ…っ!ごふッッ!!」


「おいなんだ───うが……ッ!!」



ひとり、ふたり、もうひとり。

閑静な住宅街。
ひとの寄らない夜の公園。


飲み込まれそうだった影がとつぜん開けたかと思えば、響いた鈍い音。



< 214 / 315 >

この作品をシェア

pagetop