このキョーダイ、じつはワケありでして。
お腹を押さえがらも顔を上げると、予想外の表情があった。
この兄は私の帰りが遅すぎることに怒っていたわけではなく、私がむやみやたらに人を傷つけたことに対して悲しんでいるのだと。
むしゃくしゃした。
ちょうどいいと思ったから、やった。
その結果、殺されそうになった。
「……にー、ちゃん、」
うずくまっていた身体がひょいっと起こされる。
行動に比例しなかった手のひらは、ずっと助けを呼んでいたもの。
転がっていたリュックを抱っこ紐のように肩にかけて、私を背中に乗せた兄が息切れしていること。
いま、知った。
「なにされた?」
「おなか…、蹴られた」
「それだけ?」
「…うん」
べつに大丈夫だよ。
私が居なくなったとしても兄ちゃんはもう1人じゃない。
「────…よかった」
ため息混じりの温かすぎた声に、ぶわりと涙が溢れ出る。