このキョーダイ、じつはワケありでして。




────なにもなかったんだ、俺には。


本当に何もなくて、満たされるものすらなくて、そんなときに思い出した。

あの夜の温かさを。


ボロボロで帰宅して、玄関にそのまま倒れこんで。



“あったけー…。……なにこいつ”



腕に抱きしめた妹のぬくもりと優しさを思い出したら、こいつだけは離しちゃならないんだろうと思った。


血の繋がりなんかいらないよ。


血の繋がりがなんだ、そんなもので命のつながりが決まってしまうというなら。

相手に対する価値が決められてしまうというのなら。


俺と慶音には当てはまらなかった。
ただそれだけのこと。



『テツ、このまま言わなくていいと思う?』


『え…?』



おまえだって気づいているはずだ。

俺たちキョーダイが兄妹じゃないことくらい。



『俺、あいつに嘘つき続けて…いいのかな』



いつか、その日が来たら。


慶音は俺を軽蔑するのだろうか。

俺に一線を引いて、兄貴とは見なくなるんだろうか。


笑えるだろ。
俺は、そうなることに怯えているんだ。



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