このキョーダイ、じつはワケありでして。
『…慶音ちゃんの前だよ』
視線を下げてから、ハッとする。
知らなかったんだこいつは。
両親が死んだとき、顔を見なかった。
自分のせいで───罪悪感を常に抱えている、妹は。
『こいつは…、慶音は、俺のたったひとりの……大切な家族なんですよ』
こいつしかいないんだ。
俺は、俺たちは、もうどちらかを失えば独りぼっちだ。
『あんたらから見れば他人事で大したことじゃないかもしれない。けど、俺たちにとっては心臓がえぐられるくらい……辛いんですよ』
小さい……。
こんなにも小さな身体が土砂災害を乗り越えて、タワーからの落下も乗り越えて。
『かえろう。にいちゃん』
頭を下げつづける担任、保険医、そして最終的に駆けつけてきた校長。
妹を背中に乗せた俺の腕は、震えていた。