このキョーダイ、じつはワケありでして。
『腰やっちゃったなんて、おばあちゃんみたいだね慶音』
横断歩道、車、信号、解体途中のビル。
ヒト、人間、ヒト、人間、自然災害。
どこからこの背中に乗せた小さな命を消しにかかってくるかと、俺は怖かった。
ほんと笑える。
30人相手にひとりで突っ込んでいたような男が、たったひとつの命を守るだけでこんになにも怯えて必死とか。
『ねえにいちゃん。にいちゃんは、わたしが死んだら……かなしい?』
鬼かよおまえは。
ここでする質問にしては意地悪すぎる。
耳が遠くなって、喉がいっきに渇いてゆく。
俺の恐れていたことが、いちばん恐れていたことが、まさか本人から投げかけられるなんて。
『……悲しくは、ないかなあ』
いらないんだよ喧嘩が得意な強さなんか。
そんなもの必要じゃない。
俺に必要なのは、今このとき、小さな妹に安心を与えてあげられるような強さだ。