このキョーダイ、じつはワケありでして。




うん、ありがとう───。


それすら伝える余裕もなく、淡々と嘘を言う。

天瀬に背中を向けるように、リハーサルに使われる音楽室とは正反対にある教室へと戻った。


ちゃんと持ってきていたはずの胴着が跡形もなくロッカーから消えている。


そのことに気づいたのは、運が悪くもリハーサルが始まる20分前のことだった。



「今日に限ってなんでよ……」



チッと、思わず舌打ちが漏れる。


文化祭のときくらいは大人しくしてくれるものだと油断していた。

毎日毎日エスカレートしてゆく嫌がらせは、ほとんど2年生と3年生の女子生徒からだった。



“あんたの大切な胴着、返してほしかったら中庭トイレ”



引き出しの中に入っていた紙切れ。

ぐしゃっと握りつぶして、すぐに向かった。


きっともう体育館には保護者や生徒、先生たちが集まりつつある。


ステージ発表が文化祭メインみたいなところがあると、誰かは言っていた。

もちろん模擬店も大いに盛り上がってはいたが、劇やバンド演奏、ミスコン&ミスターコン、そして部活発表。


これに勝るものはないと。



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