このキョーダイ、じつはワケありでして。
「きゃあ…ッッ!!」
寸前でピタリと止めたこぶし、うずくまる女子生徒。
正拳突きは、空手の基本といわれる技。
肘を伸ばした瞬間に呼吸を合わせて止める、単純な動作が想像以上に難しい。
習いはじめた当初は何回も何回も必死に練習したっけ。
「こんなクズに執着したところで自分が馬鹿を見るだけです。自分まで猿に落ちぶれてどうするんですか」
「ちょっと、それって俺も猿ってこと?」
私の容赦ない行動を見て楽しそうに笑うは張本人。
とりあえず十分な脅しにはなったみたいで、教室内はしんと静まり返った。
「そーいうことだからおふたりさん。俺に手ぇ出すとこの子に返り討ちにされるよ?みんなも覚えておくよーにね。慶音は俺に忠誠を誓った犬だから」
ちがう。
断じて違います誓ってない余計なこと言うな。
忠誠どころか首を常に狙っているクーデターでいい。