このキョーダイ、じつはワケありでして。




「成海さんは…俺の憧れなんだ」


「えっ、兄ちゃんが…?」


「ふっ、兄ちゃんって呼んでんの?」


「あっ、いや、……うん」



小さな弱味をまた握られてしまったと構える私とは裏腹に。

天瀬はそれすら微笑ましいという、初めての顔ばかりを見せてくれる。



「かっこいいよな、成海さんって」


「うん…!そーだよ兄ちゃんは世界でいちばん格好い────……あ。」


「ふっ、ははっ!四宮がそんな顔するとか」



いやいや、私のセリフだ。

天瀬ってそんなふうに笑えたの…?



「6歳のときさ、町で不良に絡まれたところを助けてもらったことがあるんだ。それから成海さんみたいになりたくて、俺は7歳から空手を習いはじめた」



以来、ずっと彼にとっての憧れらしい。

もちろん兄ちゃんからも聞いたことなかったし、まあそれもそうだ。


天瀬が6歳なら、当時の兄は14歳。


兄ちゃんの記憶力には私もあまり期待してない。



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