このキョーダイ、じつはワケありでして。
即答をして、すぐにぶんぶんと首を左右に振る。
「なんか最近一緒にいるってウワサ、立ってるけど」
「ないない。それウソだよ、ほんとそーいうのじゃなくて」
やめて、どっかいけ。
いまは天瀬との楽しい時間なんだから。
それを邪魔してくるって……今日からあいつは志摩先輩じゃなく、邪魔先輩だ。
「まあ、なんでもいーけど」
いや、よくない。
変な勘違いされてたら困る。
けれど天瀬は、私が考えていることとはまた違う、どこか遠い目をしていた。
「やめといたほうがいい、あいつは」
「…え?」
「俺、あいつだけはこの世でいちばん嫌いだから」
そういえば私が自分の家族の話をしたとき、天瀬も私に話してくれた。
中学3年という微妙な時期に転校してきた理由は、親の再婚だと。
母親が新しい人と再婚をして、相手側にも連れ子がいて。
その連れ子は自分より1歳年上の男だと。
『俺はそいつのことを兄貴だなんて微塵も思ってないし、俺はあいつが大嫌いだ』
そのときも同じ顔をして同じようなことを言っていたんだ。
ぼうっと立ちすくむ私を残して、天瀬は道場を出ていった───。