このキョーダイ、じつはワケありでして。




「なんでおまえっていつもギリギリなの。余裕持って買っておけって、兄ちゃんいつも言ってるだろ」


「……うん。ごめん」



始まるお説教。

兄ちゃん、ここ家じゃないんだ教室なんだ。



「…これ、」


「え、」



と、スッと私の背後から差し出された小さなケース。

中にはたくさんのシャーペンの芯が入っていた。



「好きなだけ使っていーから」



まさか咲良より先に天瀬が動くとは。


困惑しつつも受け取った私は、ひとつだけ取り出す。

もう何本か入れておけば?なんて目で見てきたが、そうはさせなかったのは兄でもある。



「ありがとう。ほんと助かったよ」


「い、いえ…」



人にはなるべく貸しも借りも作らないこと。

もし作った場合は数日以内に返せるものだけにすること───、


それが、兄との約束だった。



「名前、聞いていい?」


「あっ、えっと、あませです。天瀬 真幌、です」



戸惑いながらも食いぎみに自己紹介する天瀬を、他のクラスメイトが逆に食いぎみになって見つめる。



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