このキョーダイ、じつはワケありでして。
「───はじめっ!!」
実際のところ、勝てる見込みはない。
天瀬のほうがどう考えたって技もスピードも私を上回っている。
兄ちゃんが「ぜったい勝て」とは言わない理由は、彼も結果は分かっているから。
勝ち負けじゃない。
そこに執着することが強さではないと、私に教えているんだ。
「四宮さんって、たしかご両親が事故で……」
「ええ…、私も娘から聞いたわ。だからお兄さんが親代わりだって」
「じゃあ今も、あのお兄さんとふたりで…?」
授業参観のときもそう。
誰かの悲惨話というものは、どうしたってみんなが好きこのむ話題になってしまう。
記憶のなかにいる母と同い歳ほどの女性たちから聞こえるヒソヒソ声は、私がずっとずっと大嫌いなもの。
『おまえ俺のこと知ってる?…ってのもおかしいか。俺はおまえの───』
『なるみ…にいちゃん』
『…そう。昔はね、普通に兄妹してたんだけど。このとおりグレちゃってさ俺』