このキョーダイ、じつはワケありでして。




お母さんとお父さんがいなくなって、ふたりきりになって。

そのときの自己紹介のような不思議な挨拶は今もしっかりと覚えている。


ここだけの話、本当は施設に引き取られる予定だった私を引き留めたのは兄だった。



『ま、気楽にやろーよ。俺が立派な子に育ててやるから。…とか言って、こんなちゃらんぽらんが言っても説得力ないか』



それまで遊び呆けていながらも兄は大学に通っていたが、派手な髪色はやめて大学も中退。

私を養うためだけに真面目に仕事を探して、私との生活だけを考えて。


お惣菜や買ったものばかりだと栄養が偏ってしまうからと、料理だって独学で学んで毎日のように手料理を振る舞ってくれた。



『……慶音、どう?』


『おいしい』


『嘘つけ。どう考えてもクソ不味いだろ。どーしよ、ガキんちょ慶音ちゃんに気ぃつかわせちゃった兄ちゃんどーしよ』



慶音と、私を呼んで。
兄ちゃんと、自分で言う。

そんなものは、ふたりで暮らしてから。



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