このキョーダイ、じつはワケありでして。
そもそも怒ってないし、あんなに本気で向かい合えたのも楽しかった。
天瀬と1度は手加減ナシで試合したいと思っていたから、逆に感謝してる。
「ごめん四宮…。おまえの動き、わりと俺もビビって…たぶん油断したら負ける気がしたから」
「…天瀬も今まで対戦した人とレベル違うくらい、強かった」
もどかしい。
怒ってるわけじゃないことはせめて伝えたいのに、目すら見れない。
ほんとうに私は天瀬の強さを改めて実感することができて嬉しかったんだ。
「お互い強くて格好よかったよ。天瀬くんもなかなか良い動きだったし、慶音もよく応戦したね。今日はふたりが大優勝で、引き分け」
ぽんっ。
素直になれない私たちの頭に手を置いた兄の一言で、空気は軽いものに変わる。
「あの、成海さん…、俺のこと、蹴散らしたいとか思ってますか」
「蹴散らせてくれるなら?」
「……………」
憧れの存在の前でやらかした…と後悔しつつ、黙りこむ天瀬。
おねがい兄ちゃん、怒らないであげて。